思いがけない相続問題

query_builder 2024/09/08
相続土地
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思いがけない相続問題

 

■Y田家の相続問題:円満解決かと思われたはずが…

Y田家は、旧街道に面する町で代々続く名家でした。江戸時代に建てられたと言われる築150年以上の立派な家屋敷は、長年にわたり家族の象徴として受け継がれてきました。その家屋敷をめぐる遺産相続が、Y田家に予想外の混乱をもたらすことになるとは、誰も思いもよりませんでした。

 

■相続協議の始まり

Y田家の父親はすでに他界しており、残された母親のK江は長男のA宏とその妻と共に、屋敷で静かに暮らしていました。長女のH美はすでに結婚して実家を離れていましたが、家族の仲は良好で、特に大きな争いもありませんでした。しかし、K江が亡くなったことをきっかけに、相続問題が表面化します。

母親の遺産は、屋敷を含む土地と建物が4000万円、さらに5000万円の預貯金というものでした。家族は話し合い、A宏が土地と建物を、そして一部の預貯金1500万円を相続することに、H美が残りの3500万円を受け取ることで合意しました。この分割は兄弟間で争うことなく、スムーズに進んだため、一見すると問題は解決したように見えました。

家族全員がこれで遺産相続の問題は片付いたと安心していました。しかし、これが誤算だったのです。

 

■明らかになる相続の落とし穴

遺産分割がスムーズに進んだように見えたY田家ですが、その後、A宏が家屋敷の相続手続きを進める中で予期せぬ問題が浮上します。戸籍を遡って確認したところ、K江の夫であったY田家の父親は、実は再婚であったことが判明したのです。しかも、前妻との間に子どもがいたことがわかり、その子どもたちにも相続権があることが発覚しました。

この発見は家族にとって大きな衝撃でした。さらに調査を進めると、前妻との子どもたちの子孫を含めて、相続権を持つ人物が20人以上もいることがわかりました。これにより、相続は複雑化し、相続登記を進めるためには、すべての相続権者から相続放棄の同意を得なければならなくなったのです。

 

■権利者との交渉

A宏は相続を完了させるため、前妻の子どもたちやその子孫に手紙を送り、5万円の「ハンコ代」を提示して相続権の放棄を依頼しました。この提案を受け入れた者もいれば、少額のお金では同意しない者もいました。特に、前妻の子どもたちは、父親がかつて自分たちの母を捨てて再婚したことを根に持っており、強い反発を示しました。

「なぜ私たちが、母を捨てた父親の再婚相手の家の相続に協力しなければならないのか」という声が多く、交渉は難航しました。A宏は電話や手紙で何度も説得を試みましたが、「ハンコなんか絶対に押さない」と言われ、話し合いは行き詰まりました。

 

■古民家リノベーションの夢、頓挫

A宏は、この家屋敷をリノベーションし、歴史を受け継ぐ形で家を残そうと考えていました。リノベーションには約2000万円の費用がかかる見込みで、銀行からの融資を頼りにしていました。しかし、その融資を受けるためには、土地と建物の名義がA宏自身のものである必要がありました。

ところが、現在の名義はK江のまま、さらに一部は前妻の子どもたちの相続権が関わっているため、相続手続きが完了しない限り、銀行からの融資は受けられません。「祖父の名義が残ったままでは、この家を守るのは難しい」と、A宏は家族に諦めの言葉を漏らしました。

最終的に、A宏はリノベーション計画を断念せざるを得ませんでした。「この家を残すことにどれほどの意味があるのか」と思い悩んだ末に実家の相続を弁護士に依頼することになりました。その結果、多額の費用と時間を費やすことになりました。そのため実家のリノベーションをあきらめることになりました。妻のE子も、彼の苦悩を見て理解を示し、「仕方ないわね」と静かに賛成しました。

 

■所有者不明土地問題の拡大:日本全体に影響を及ぼす課題

このような相続に関する問題は、Y田家だけに限ったものではありません。日本全国には、相続登記が未完了のために所有者不明となっている土地が数多く存在しており、これが深刻な問題となっています。国土交通省の調査によると、所有者不明の土地の広さは2016年時点で約410万ヘクタールにも及び、これは日本の国土の約20%に相当します。その面積は、九州の広さを超えるほどです。

 

この問題の主な原因は、相続登記が義務化されていなかったことです。相続人が「自分が相続しました」と登記するには、費用と時間がかかるため、手続きを避けるケースが多くありました。その結果、土地の名義が何世代も前のままになっているという状況が生じています。

 

■新たな法制度:相続登記の義務化

このような所有者不明土地の問題を解消するため、日本政府は2024年から相続登記を義務化する法律を施行しました。この法律により、相続人は土地や建物を相続する際、必ず登記手続きを行わなければならなくなります。この新たな制度は、過去に相続された土地についても適用されるため、以前に相続登記が行われていない土地も対象となります。

この法律の施行によって、未登記の土地が整理され、将来的な相続問題が軽減されることが期待されています。しかし、実際にどの程度の効果があるかは、今後の運用次第です。

 

■未来に向けた教訓:相続準備の重要性

Y田家の相続問題から学べる教訓は、相続において見落としがちな問題に早めに対処することの重要性です。土地や建物の名義を適切に管理し、相続登記を怠らないことで、後々のトラブルを避けることができます。特に、所有者不明土地問題や複数の権利者が存在する場合には、早めの対策が必要です。

将来の相続を考える際には、相続登記を確実に行い、所有権を明確にすることが大切です。これにより、家族間のトラブルや手続きの複雑化を防ぐことができ、安心して資産を次の世代に引き継ぐことができるでしょう。

 

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